1999/02/05 大組織は上ほど腐る(2)
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人間はあさましい動物である。本能的に有利なもの、楽なものを見せつけられると
どっとその方向に押し寄せる。それが人間のステータスを決め甘い生活を保証する
となればなおさらである。受験競争という人間の格付け競争は、プライドと実利を餌
として、またたくまに本能的な苛烈な競争に発展していったのである。
親はわが子を優良株にせんとハッパをかけ、子は親の期待を一身にあつめ悲壮な
戦場に向った。学校は受験地獄のちまたとかし、教師は自らの威信を保つことに汲々
となったのである。猫も杓子も「偏差値」を叫び、東大をめざして一直線に走り始めた。
マスコミはこの異常な状態に警鐘を鳴らすことさえせず、あたかも国家の一大イベント
であるかのごとく大いにはやし立てたのである。こうして日本国民はこの受験競争
というシステムの意味を真剣に吟味することなく過酷な受験バブルにのめり込んで
いったのである。
受験競争とは何か。それは歪んだ人格を形成し選別する製造プラントであった。
その人間選別システムは構造自体に重大な欠陥があったため、歪んだ性格を
もつ「優等生」を多量に選抜する結果となったのである。
第一に「優等生」の基本は利己心(エゴ)にあった。競争に勝ち抜くことの目的は
有利な生き方、楽な生き方を手に入れる私欲が基本にあったのである。
第二に受験体制を絶対に正しいものとして疑わない人間が「優等生」として選抜された。
すなわち自分より上位にある権威(受験では国家)が行うことは絶対に正しく、それに
従えば必ず利益にあずかれるとの意図のもとに、これに絶対盲従することを得策とした
人間が「優等生」として選抜されて行ったのである。その結果、権威を絶対化し、自らの
判断力を持たない、上に忠実で下に冷淡な「優等生」気質が形成されていったのである。
第三に選抜の方式が暗記中心で全科目に平均して高得点をあげなければならない
方式であったため、ある分野で特別に秀でた才能の持ち主がしばしば選抜から落と
される運命となった。人間にはそれぞれ適性があり、個性を伸ばしてこそ天性の才能
が発揮されるものだ。特別な才能をもつ人間はえてして不得意な分野には見向きも
しないのが常である。この選抜方式では結果的に、こういったすぐれた才能の持ち主
を「優等生」として選抜することができなかったのである。全科目に平均して高得点を
あげる「優等生」とは、どこか不自然で不気味な人格である。それは意図的に作為さ
れた個性のない人格であり、自然な主体性を欠いたロッボト的人間であった。
第四に十代後半とは人間として若さあふれる最もすばらしい時代である。真理を探究
する意識が芽生え、スポーツや異性との交際を通じて人生について真剣に考え始める
大切な時代である。このような多感な時期に「優等生」は若者らしい自然な欲求に従う
ことを自ら封じ、受験競争に勝ち抜くことを絶対の使命として、将来獲得する利益を夢
みて、無味乾燥な受験勉強に耐えたのである。その結果の反動として「優等生」は
青春を犠牲とした代償として得られる名誉、権力、金銭に異常にこだわる執着心と
自己中心的で人間らしい余裕を欠いた人格を形成していったのである。
第五に「優等生」は点数(数値)が人間の優劣を決定するという誤った価値判断を
徹底的に植え付けられたため、人格や人間性による人間の価値を実利を生む
試験結果よりも一段と低い価値として見下す習性が身についてしまったのである。
人格よりも学歴や学校歴、さらに試験成績を指標として人間の優劣を判断する
ことが彼らにとっては正常な価値判断とされたのである。この倒錯した世界では
自分より点数(数値)の低いものを蔑み、高いものに嫉妬するという狭量で
思いやりを欠いた「優等生」特有の気質を形成していったのである。
このようにして受験競争に勝ち残ったものは、有名大学に進学し、さらに上に進む
に有利なパスポートを手に入れると、公務員試験、司法試験、就職試験などを経て
「官僚組織と企業グループ」の尖兵として大組織にに吸収されていったのである。
排他的な利益共同体であるこれらの大組織にとっては、受験競争で選抜された
人材はまことに組織のニーズにかなった人材であった。上に忠実で、共同体の利益
のみを考えて行動するよく訓練された兵隊であったからだ。組織は彼らに、この二つ
の原則を踏み外さない限り、ご褒美として、年功でエスカレータ式に出世し、権力を
与えることを約束したのである。
こうした受験体制が昭和30年代から平成のはじめに至るまで長く日本国を支配して
来たのであり、現在、日本の大組織の上層部はすべて受験戦争によって選抜された
「優等生」によって占められているのである。受験戦争で種をまかれた歪んだ人格は
大組識の中で栄養を得てぬくぬくと育ち、私利私欲を貪るという基本に忠実に腐敗に
腐敗を重ねているのである。