1999/02/01  大組織は上ほど腐る(1)                                                  前ページに戻る


                                                          
「絶対権力は必ず腐敗する」という政治学の法則がある。
この法則は日本の大組織について考える時そのまま適用できる。
日本の大組織を動かす上層部(エリート)は必ず腐敗するということである。

大組織とは官庁と民間の大企業を指す。これらの組織は官、民の違いはあれ
その組織体質は同じである。大企業は組織形成にあたって官庁を手本として
組織造りを行ってきたからである。電力、ガス、鉄道、電話といった半官色の
強い企業だけでなく、金融機関を筆頭に、機械、電機、製鉄、自動車といった
民間製造業においてもこの体質は変わらない。現代日本の大組織の上層部
を占める人間はある定まった共通する体質を持っており、この体質が腐敗を
生むのである。

戦後、米国の核の傘のもとで、世界の工場の責務を負わされた日本の支配層
は、それを実現させるための効率の良い社会システムを必要とした。それが
「五十五年体制」と呼ばれる社会システムであった。それは戦前には存在しな
かった終身雇用と年功序列を柱とした企業共同体化のシステムであった。

いわば表面的には資本主義のお面をつけていながら、実際は日本人を工場に
囲い込むための社会主義体制の確立であったのである。そしてこれに人材を
供給するための手段として「五十五年(昭和30年)」以降、急速に受験競争に
よる人材選別の教育体制を進展させていったのである。大組織のエリートが
腐敗、堕落するという歪んだ体質を育んだものは、他ならないこの「五十五年
体制」とそれを強力に助っ人する受験体制に起因するのである。
 
ソビエトの例を引くまでもなく、社会主義体制とは官僚組織に絶対的権力を委
ねた統制型社会のことである。国家イコール官僚に強力な権威と指導権を与え、
国民はそれに服従することを余儀なくされる社会のことである。敗戦の焼け跡
から世界の工場へ変身をとげるためには、この体制が最も有効な社会体制で
あったわけである。この体制下で旧財閥系を中心とした企業グループが形成
され、グループごとに縦割りの系列化が急速に進展して行ったのである。また
国家(官僚)はこの企業グループを護るために「護送船団方式」を組み、厳重な
監督のもとに手厚い保護を加えたのである。

この社会体制で強力なイニシャチブをとった官僚組織とは戦前の官僚組織を
そのまま引き継いだ権威主義者の特権集団であった。彼らはアメリカ支配層
の信任を獲得すると、その代理人として日本の改造作業に乗り出していったの
である。この集団の特徴は組織そのものが共同体化しており、組織の構成員
のみで利権を共有し、外部のものに決してその甘い汁を吸わせない排他的な
独善性にあった。この官僚によって手厚く保護され、育てられた企業グループ
も、当然その指導者にならって組織を共同体化し、利権をその構成員だけで
囲い込む排他性と独善性を身につけて行ったのである。このシステムの発展
とともに特権官僚と企業グループのトップは政治家と結びつき、閨閥化(結婚
による血族化)により、日本の新たなエスタブリシュメント(支配層)を形成して
行ったのである。

「平家にあらずんば、人にあらず」のことわざの通り、「五十五年(昭和30年)」
以降 の日本では「官僚組織と企業グループ」が絶対安全パイの「平家」であり、
「これに属さなければ人にあらず」といった悪しき風潮が支配的となっていった。
これらの組織に属さなければ、下積みで不利な抑圧 された人生を送らねばな
らないといった暗いイメージが国民に浸透していったのである。国民にこのよう
な心理的効果を与えるのに決定的な役割を果たしたのが受験競争を柱とした
戦後の教育体制であった。これは教育という名を冠した人間選別システムに
他ならなかった。教育の目的は試験をふるいにして人間に学歴や学校歴とい
ったレッテルを貼り、人間を選別し、差別することにあったのである。支配層から
すればこのシステムは非常に合理的で効率の良い人間選別のシステムであり、
彼らが都合の良い人材を手に入れる最良の方法であったのである。

                                        ( つづく )