1999/01/05 正当な繁栄は針の穴
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ここまではどんな会計の教科書にも書いてあることだ。この会社は25万円の
純利益を上げているのであるから、れっきとした黒字会社である。日本には会社
と名のつく組織が100万社以上あるが、そのうちの60%以上が赤字会社である。
そこから考えるとこの会社は優良とは言えなくても、まさに健全な会社なのである。
財務諸表のどこをつついても落ち度はなく、納税の義務も履行しているのである。
ところでこの会社がこの時点で商売を止めて解散したらどうなるのだろうか。
「健全な会社なのだからオーナーは儲かってるだろうっ」て思うと、とんでもない。
考えてもみてほしい。この会社のオーナーは100万円をつぎ込んで、一年後に
手元に残った金は25万円だけである。差し引き75万円の大損なのだ。この
オーナーはこの年と同じ順調な健全経営を4年間続けてはじめて元手の100
万円を取り戻すことができるのである。そして5年後から初めて利益と呼べる
本当の事業利益を手にすることができるのである。会計や簿記の教本には
このことがまったく書いてない。事務屋の多くが商売に失敗するのはこの辺り
のことを理解していないからである。
上記の会社の例は理想的と呼べるだろう。現実には一年めに仕入れた100万円
の商品をすべて売り切り、250万円の売り上げを上げることは至難の業である。
「年間250万円の売り上げなんて、たいしたことないじゃないの」と思われる方には
0を一桁増やして考えてみていただきたい。これで現実的な話になってくるはずだ。
あなたが爪に火を燈すようにして貯えた1000万円を元手に商品を仕入れ、2500
万円ですべて売り切らねばならないのである。どうですあなたにできますか。
特別なコネや販売ルートを持たなければまず無理だろう。信用と実績のない新会社
から商品を購入するほど世間は甘くない。ましてや扱う商品が月並みなら、販売競争
は熾烈を極め、ダンピングを余儀なくされて、2500万を1500万で売りさばくことも
難しいだろう。また信用がないので資金ショートしたらその時点でアウトだ。しかも今後
も順調な販売を続けていかなければ本当の意味での事業利益を手に入れる見込み
はないのである。商売は甘くはないのだ。
だからどの業界でも大手は闇カルテルを結び、談合によって販売利益を確保しようと
するのである。また役人を接待することで役所と太いパイプをつくり、他を締め出すこ
とで、安定した公共事業を受注しその甘い汁を吸おうとするのである。こんなことは
自由競争の機会均等の原則に反して不正なことだが、現実にはどこでも行われて
いることで公然の秘密なのである。したがって新参者が自己の資本と技術を元手に、
正々堂々と商売をおこない、安定した需要を確保し、納税の義務を果たし、利益を
上げ繁栄していくことは針の穴を通るよりも至難な業なのである。