1999/02/20  武道と組織について                                           前ページに戻る


武道の創始者がその武道にオリジナルな価値を認め、素朴な動機で
その価値を世に問いたいと思えば普及活動を始めることだろう。ことに
その武道家が自らの創始した武道に強い自信と誇りを持てば持つほど
精力的で情熱的な活動となるだろう。それは悟りをひらいた宗教家の
やむにやまれぬ布教活動と似たものがある。武道とは求道であり人々を
感動させるものがあるからである。

本来の武道の普及活動とはそういったものであった。お金や名誉よりも
自分の創始した武道そのものに最高の価値をみいだし、その価値を他人
にも伝えたいという素朴な動機を出発点としていたのである。武道家とは
まさに芸術家そのものであったのである。

しかし現代では武道の普及活動はビジネス活動である。
まずはマーケットリサーチが行われる。そしてその武道のもつオリジナル
な価値が市場ニーズに合えば資金を投入して組織化していくのである。
組織化はチェーンストアの事業展開の方法にのっとって行われる。
支部を開設するものも、最初は同好会から始めて様子見て、採算がとれる
ようなら契約を結んで道場を開設するが一般的なのである。

武道の普及はすなわち組織ビジネスでありお金もうけなのである。
武道の組織を全国に展開してチェーンストア化していくことは学習塾や
英会話スクールのチェーンストア化とまったく同じである。利用者の側
からすれば何がしかのお金を払えば居住地の近くで武道の技術指導を
うけることができ便利である。組織に属せば何となくステータスが得られるし、
権威のある組織であれば、頑張って段位をとればそれなりのハクがつく。
中途半端にやったとしても、何も知らないよりは護身程度の役には立つし、
実力がつけば全日本選手権などの大会にも出場できるチャンスがあるのだ。
利用者の大半はこういった実利が目的で入門してくるのである。

利用者ニーズが増えれば、それを当て込んだマスコミが幅を利かせてくる。
昔は武道雑誌などなかったが武道がビジネスとして成り立つようになってから、
その手の雑誌が増えてきた。マスコミの宣伝効果は絶大なので武道組織も
これらの利用価値を十分認識してビジネス手段として役立てているのである。
マスコミが高い評価を与え権威づけを行えば、サービスのよい武道スクールには
人が集まり、売り上げが上がる。これがすなわち組織の安定につながるからである。

武道はもともとハングリーな時代の産物である。
今日のような豊かな時代に本物の武道を求めることがどだい無理なのである。
平和ぼけした現代の日本人には、スポーツ化された武道という名の競技に
一喜一憂するのが限界なのである。